仕事終わりの、あの暖簾をくぐる瞬間

仕事が長引いた木曜日の夜。画面から目を離した瞬間、身体の重さを初めて自覚した。

肩が凝っているというより、なんとなく自分の輪郭がぼんやりしている、そういう疲れ方だ。

バッグを担いで日暮里へ向かう。目的地は、斎藤湯。

路地を曲がると、ネオンに光る”ゆ”の文字が道と空を照らすのが見える。

ああ、今日もやってる。それだけで、少し息が楽になる。

暖簾をくぐる瞬間が、好きだ。
外の空気と、中の湿った温かさが入れ替わるあの一瞬

番台で料金を渡す。おじさんが手慣れた動作でタオルを渡してくれる。 ごゆっくりどうぞ、会話はないがその一言がちょうどいい。

脱衣所のロッカーは改装して新しい。鍵を回す音が静かに響く。荷物をしまって、服を脱ぐ。外の世界の一切をロッカーに押し込めて、鍵をかける——そういう感覚がある。

浴室に入ると、湯気がふわっと顔を包む。きれいなモダンなタイル張りの床と湯気とガラスの奥にみえる石灯籠と植物に落ち着く。どこか遠くに連れていかれるような、そんな気分。

かけ湯をして、まずはぬるめの湯船へ。高濃度炭酸が、じわじわと、足先から温かさが上がってくる。肩まで沈むと、ようやく「今日が終わった」という気がした。

隣には常連らしいおじいさんが、目を閉じて微動だにしない。その静けさが、妙に心地よかった。誰も急いでいない場所というのが、東京にまだあるんだと思う。

MEMO — 斎藤湯

https://www.1010.or.jp/map/item/item-cnt-118

東京都荒川区西日暮里2-26-3
営業時間:15:00〜24:00(木曜定休)
入浴料:520円(東京都の銭湯料金)
サウナ・炭酸泉あり(別途料金)

上がったあとは、脱衣所の新しいドライヤーで髪を乾かして、自販機のコーヒー牛乳を一本。木製の椅子に座って、ぼーっとする。何も考えない時間。

外に出ると、夜風が肌に冷たい。でも、さっきまでの「ぼんやりした輪郭」はすっかり消えていた。自分の手足が、ちゃんと自分のものに戻ってきた感じ。

また来週も、来ようと思い思いながら帰路につく。

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